ビジネスにおけるAI導入のメリットと生成AIの可能性

生成AIの登場など技術進化が進むAI。ビジネスへの導入が進む中で、従来のAIと生成AIの特徴の違いとそれぞれを導入するメリット、導入する上で注意すべき点について見ていきましょう。

「生成AI」、最近になってこの言葉をよく耳にする人も多いのではないでしょうか。ChatGPTの登場によって生成AIは更なる注目を集めています。生成AIは、従来のAIとは異なり、様々なコンテンツを新たに生成することができるという特徴があります。従来のAIは、情報の整理や分類、その結果に基づいた予測をすることができ、決められた行為、いわゆるルーティーンタスクの自動化をすることができました。生成AIは、生成を目的にデータのパターンや関係を学習し、文章を書いたり音楽を作ったりするような、様々なコンテンツを生成することができます。

生成AIの進化

 生成AIの進化の鍵には、ディープラーニングの進化があります。そもそもディープラーニングとは、「データの背景にあるルールやパターンを学習するために、多層的(ディープ)に構造で考える方法」[1]です。ディープラーニングでは、情報の入力層と出力層の間に中間層と呼ばれる構造を設け、さらに多層化することで学習します。この多層化を進化させたことで、生成AIを支えるディープラーニングは大規模かつ多様で構造化されていないデータを処理することで、複数のタスクを実行でき、画像、ビデオ、音声、コンピュータコードなど様々なコンテンツを生成できるようになりました。

AI導入のメリット


 生成AIとAIの違いについて見てきましたが、まずはAIを導入するとビジネスにおいてどのようなメリットがあるのか具体的に見ていきましょう。

  • 労働不足の解消
    情報の整理や分類、規則性のあるルーティーンワークを自動化することにより、以前は人がやっていた業務をAIに任せることで、自動化の難しい他の業務に時間を割けるようになります。
  • 生産性の向上
    人間が行うよりも大量の作業を短時間に行うことができる可能性があり、AIによってルーティーンワークを効率化することで生産性の向上につながります。AIの導入によって労働者の費やしている作業時間の半分を自動化できる可能性があると指摘している研究もあります。[2]
  • コスト削減
    業務の効率化や自動化、最適化により、人件費や余剰在庫によるコストなど様々なコストを削減することができます。
    他にも、データ分析・予測の自動化や精度向上、品質の向上など様々なメリットが得られる可能性があります。

    では、生成AIにはどのような可能性があるのでしょうか。生成AIを事業に導入することで、従来のAIを導入することによって得られるメリットに加えて以下のようなメリットがあると考えられます。
  • 自動化できる作業の幅が広がる
    従来のAIはデータ収集や処理などによって、データ管理の自動化などに効果的でした。生成AIを導入することで、コミュニケーション、管理、文書作成など従来のAIでは自動化の可能性が低かった意思決定や協力を含む知識労働を自動化できる可能性があります。ある研究では、従来のAIによる自動化に加えて、労働者の作業時間の25%を占めている知識作業を自動化することで、労働者の作業時間のうち60〜70%を自動化することできるという結果が報告されています。[3]
  • より多くの業界で導入の可能性がある
    ルーティーンワークだけでなく、以前は自動化が難しかったクリエイティブな業務を自動化できる可能性があり、より多くの業種で導入によるメリットが受けられる可能性があります。ある研究では、産業全体が影響を受けるものの、特にカスタマーオペレーション、営業販売、ソフトウェアエンジニアリング、および研究開発の4部門への導入可能性が高く、また銀行業界、先端技術、および生命科学技術分野などでは売上高に含まれる割合が最も高くなると予測されています。[4]
  • 生産性の向上による更なる付加価値の創出
    生成AIの導入によって生産性がさらに向上し、生産コストの削減や品質の向上によって収益の増加などの成果が得られる可能性があります。生成AIのビジネスへの導入は世界経済に数兆ドルの価値を生み出す可能性があり、さらに現在使用されているソフトウェアに生成AIを組み込むことでその価値は倍増する可能性があるとする研究結果もあります。[5]
  • AI導入の課題と注意点


     様々な価値をもたらす可能性のあるAIですが、その導入には課題が残っています。導入を検討する際にはどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 雇用の減少
    様々な作業が自動化されて生産効率が向上する一方で、労働者の作業活動の変更や職業の変更が必要になってきます。職業によっては仕事がなくなる人が出てくる可能性もあります。そのため、国などの公共的な機関によって労働者が新しいスキルを学んだり、新しい職業に就いたりするための支援が必要になります。
  • 一時的なコストの増加
    AIの導入には初期投資が必要になります。資金力のある大手企業だけでなく、中小企業も導入を進められるような支援が求められます。国の制度では、中小企業庁が行っているIT導入補助金、持続化補助金やものづくり補助金[6]などがAI導入に活用できる可能性があります。また、地方自治体独自での補助金などもありますが、AIの技術進歩と経済への影響が加速する中で、AI導入に特化した支援が求められています。
  • 高度なリスクマネジメントが必要
    AIに問題が生じると、AIが関与している工程の全てに影響が出る可能性があります。生成AIの導入により幅広い業務自動化が可能になりますが、AIを幅広く活用していれば影響が及ぶ範囲も広くなるリスクがあります。導入する際にはそのような事態をあらかじめ想定し、対策を決めておくことが重要です。
  • 責任の所在が不明瞭
    AIによる判断の責任の所在について様々な議論がなされていますが、現状では法律による明確な定義はありません。基本的にはAIを搭載した商品の製造者やサービスの提供者などが責任の主体となることが多いようですが、[7]導入する前にAIについてよく知り、柔軟に対応できるようにしておくことが重要です。
  • 生成AIと情報リテラシー


     生成AIによって新しいコンテンツをAIが生み出せるようになったことで、私たちの正しい情報を認識する能力もより一層求められるようになっています。生成AIが収集した情報の真偽を判断できず、誤った情報を元にコンテンツを生成してしまったり、ステレオタイプを反映したバイアスのかかったコンテンツを生成してしまったりする可能性があります。最近では、民放のニュース番組を真似た悪質なフェイク動画がネット上で話題になったりしました。情報の真偽を判定する方法や利用者である私たちの注意が必要です。対策には各業界が取り組んでいます。2021年には、情報源の信憑性をメディアコンテンツの出所や経緯、来歴を認証する技術規格を開発することで、偽情報、誤情報、オンラインコンテンツ詐欺のまん延に対処し、デジタルコンテンツの信頼をあらためて確立するという共通のミッションを掲げ、業界団体であるCoalition for Content Provenance and Authenticity(以下、C2PA)が設立されました。[8]C2PAの運営委員会には、Adobe、Arm、BBC、インテル、マイクロソフト、Truepic、ツイッター、Publicis Groupe、ソニーが参加しており、2024年2月8日にはGoogleが参加することが発表されました。[9]また、キヤノンは生成AIによる偽画像と真画像を識別するための仕組みを取り入れたカメラの2024年中の発売を目指しています。[10]

    まとめ

     以上のようにAIの導入には様々な課題もありますが、それぞれの事業に合った方法で活用することによってビジネスにおいて多くのメリットがあります。
    当社では、お客様のビジネスに合わせて最適なAIシステムの受託開発、生成AI導入支援コンサルティングを行っております。AIの導入を検討している、興味があるという方はぜひ当社までお問い合わせください!

    [1] 野村総合研究所 用語解説https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ta/deep_learning

    [2]Michael Chui et al. The economic potential of generative AI: The next productivity frontier,2023
    https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/the-economic-potential-of-generative-AI-the-next-productivity-frontier#/

    [3] Michael Chui et al. The economic potential of generative AI: The next productivity frontier,2023
    https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/the-economic-potential-of-generative-AI-the-next-productivity-frontier#/

    [4]Michael Chui et al. The economic potential of generative AI: The next productivity frontier,2023
    https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/the-economic-potential-of-generative-AI-the-next-productivity-frontier#/

    [5] Michael Chui et al. The economic potential of generative AI: The next productivity frontier,2023
    https://www.mckinsey.com/capabilities/mckinsey-digital/our-insights/the-economic-potential-of-generative-AI-the-next-productivity-frontier#/

    [6]中小企業庁 リーフレット
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/leaflet/l-2020/200508AI_pamflet.pdf

    [7] 消費者のデジタル化への対応に関する検討会 第4回AIワーキンググループ(2020年5月25日)資料3https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/review_meeting_004/019943.html

    [8]SONYホームページ ニュースリリース 2022 デジタルコンテンツの信ぴょう性証明に取り組む標準化団体C2PAの運営委員会にソニーが参画 https://www.sony.co.jp/corporate/information/news/202203/22-0317/

    [9]C2PA ホームページ News Google to join C2PA to help increase transparency around digital content
    https://c2pa.org/post/google_pr/

    [10]読売新聞オンライン 2023年12月26日 「フェイク画像」対策カメラ、キヤノンが発売へ…撮影日時や場所などの情報を改変できない仕組みに
    https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231226-OYT1T50007/